2008年10月15日 読売新聞 医療ルネッサンス
ホクロ似「メラノーマ」
長野県千曲市の主婦A子さん(63)は十数年前、夫の実家の農作業を手伝い、
汚れた靴下をぬいだ時、左足の裏にうす茶色のシミを発見した。
小指の付け根近くにあり、長さ2センチ弱の細長い三角形だった。
「生まれつきのものかなと、あまり気にしなかった」
5年ほどたつとホクロのように色濃くなり、
気にはなったが、深刻な病気とは想像もしなかった。
その後、夫の勧めもあり、2005年に近くの病院の皮膚科を受診した。
最初に気づいてから10年以上経過していた。
たまたま信州大学病院から来ていた若い医師に診てもらうと、
すぐに詳しい検査を勧められた。
同病院皮膚科では、拡大鏡で患部を観察するダ−モスコピーと呼ばれる診断法で、
「メラノーマ」(悪性黒色腫)が疑われた。
周囲1〜2ミリの範囲を摘出し、検査の結果、メラノーマと確認された。
ただ、皮膚表面にとどまる早期で、転移の心配はないと判定された。
念のため、さらに4〜5ミリ広く切除して完治した。
メラノーマは、紫外線から皮膚を守る色素を作る細胞メラノサイトが、がん細胞になって生じる。
日本人の患者は毎年、人口10万人に2人程度で、発症部位は手足に多く、特に足の裏が30%を占める。
転移しやすく、進行すると有効な治療法がない。
最も恐れられているがんの一つだ。
A子さんは「治療後に怖さを周りに教えられた」と言う。
発症原因について、同大医学部皮膚科教授の斎田俊明さんは
「手のひらや足裏は白いが、メラノサイトは色素を作らない状態で存在している。そこに、けがな
どの外的刺激が引き金になり、がんになると推測される」と話す。
患部の面積が広くても表層内にとどまる段階なら、周囲3〜5ミリ離して切れば完治する。
しかし、厚さが4ミリ以上になると転移の危険性が高くなる。
早期はホクロに似ており、以前は少し疑わしいと切除していた。
しかし、斎田さんらが1990年代前半にダーモスコピーにより、
ホクロとメラノーマの違いを世界に先駆けて発見し、不要な手術は避けられるようになった。
手のひらや足裏には指紋に相当する凹凸があり、
メラノーマは丘が黒く、ホクロは溝が黒いという違いがあるからだ。
この診断法は2006年に保険適用された。
斎田さんは、メラノーマの外観の特徴として、
(1) 大きさが7ミリ以上
(2) 形が不規則
(3) 色に濃淡差がある
などを挙げる。
「気になったら、大学病院やがんの専門病院などを受診してください」と話す。