癒着業者へ資金が還流しやすい箱モノや機器だけが、
高額の税金で賄われていく。
一方で、本当に必要なはずの医師の絶対数の確保ができていない。
ましてや個々の医師の質の向上には、遠く及ばない。
病んでいるのはこの国なのかもしれない。
2007年12月19日
読売新聞
がん放射線治療
医師不足、動かぬ装置
治療を休止している長野県立須坂病院の放射線治療室。治療装置の脇には院内の備品を入れた段ボール箱が積まれている
長野県須坂市にある県立須坂病院。高精度な放射線治療ができる装置が、今年5月から、ひっそりと眠っている。
この装置は、2002年3月、病院改修に伴い、約3億4500万円で導入された。長野県県立病院課によると、300床を超えるこの病院は、県立病院の中では最大規模で、医師の研修施設でもあることから、改修の際、ひと通りの設備を整えたという。
ところが今春、放射線治療医や技師ら職員が確保できなくなり、治療を休止することになった。
それまで週1回、非常勤で信州大病院から来ていた放射線治療医に、継続を断られたのが直接の原因。さらに、2人いた治療担当の技師のうち1人も辞めた。
それまで行っていた治療も、決して多くなかった。同病院で放射線治療を受けた患者は5年間で計155人。最も多かった3年前でも年50人、ひと月当たり4人程度だ。
隣接する長野市には、放射線治療を行う病院が複数ある、といった事情も背景にある。斉藤博院長は「家の近くで治療したい人もいるでしょう。総合病院として治療の選択肢が一つ減るのは残念」と言う。
一方、信州大病院放射線科准教授の鹿間直人さんは「県内には、放射線治療医が8、9人しかいないのに、放射線治療装置を備える施設は14あり、医師不足、施設は過剰の状態。数少ない医師が多くの施設を非常勤で駆け回るのでは、正確な治療を維持するのは難しい」と指摘する。
実は、この春まで県立須坂病院に出向いていたのは鹿間さんだ。ほかにも2病院の診療を非常勤で掛け持ちしている。
月に数人ほどしか治療しない施設が散在する状況に疑問を感じるという鹿間さんは「治療施設をある程度集約化して、スタッフを固定した方が、治療の質や安全性を保てるし、効率的だ」と話す。
こうした問題は長野県に限らない。
放射線治療施設は全国に700以上あるが、放射線治療医らで作る日本放射線腫瘍(しゅよう)学会の認定医は約540人。県立須坂病院のように、装置があっても稼働しなくなるケースは、各地で起こりうる。
高齢化に伴い、体を切らない放射線治療の需要の増加を見込み、放射線治療装置を導入する医療機関もある。だが、そのための医師ら人材の確保が追いついていない。特に、高度な放射線治療を安全に行うには、複数の治療医が常勤することが望ましいが、そうした病院は少ない。
放射線治療医の育成と、治療を行う施設の集約化が必要だ。
放射線治療施設の医師 日本放射線腫瘍学会の2005年の調査によると、712施設のうち、放射線治療専任の医師1人(週40時間勤務で換算)以上の施設は274施設で、全体の38%にとどまる。